この記事では、エナメル線の種類について説明します。
初めてコイルの設計をされる方を対象にしています。
まず最初に、用語の説明です。
マグネットワイヤー: 磁力を持たせるために使用する 特殊導線の総称。
エナメル線 : 金属などの導体に、絶縁材料としてワニスを焼き付けたワイヤー。
この定義によると、エナメル線はマグネットワイヤの一種となります。
コイルの業界では、マグネットワイヤーをエナメル線の別称として用いることがありますので、ご留意ください。
本記事では、代表的なマグネットワイヤである、エナメル銅線について、その種類を説明します。
エナメル線は、JIS 3215-0-1:2014で規定されていますが、現在、日本国内で主に使用されているエナメル銅線の寸法は、JIS 3215-0-1 24頁の付表JA代替特性に示されたものになります。
大手線材メーカーから出ているカタログの寸法表は、基本的にこのJIS 3215の付表JAに則った寸法になっています。
エナメル銅線の導体径

用語について説明します。
「導体径」とは、銅の直径のことをいいます。
また「線径」とは、被膜層の厚さも含んだ線の直径をいいます。融着線の場合は、融着層の厚さも含んだ直径になります。
導体径はΦ0.02mm~Φ3.2mmの範囲から選ぶことができます。詳細はカタログまたはJIS 3215付表JAをご参照下さい。
Φ0.03mm以下の極細線につきましては、巻線は可能ですが端末線が切れ易く、作業性が著しく悪くなるので、使用するにあたってはご留意ください。半田付けなどの作業を考えると、Φ0.03mm以上の線材を使うことをおすすめします。
太い線でコイルを作成する場合は、コイルの内径をどこまで小さくできるかの判断が難しいかと思います。コイルの内径を極力小さくしたい場合は、導体径の5倍程度なら問題は無いと考えます。更に小さい内径を望む場合は、製作業者にご相談ください。
絶縁被膜の厚さ
絶縁被膜の厚さは、4つのグレードから選ぶことができます。
被膜の厚い順に、0種、1種、2種、3種という名前が付いており、こちらもJIS-3215-0-1の付表JAに規定されています。
導体径Φ0.2mmのエナメル線を例に、最小被膜厚を比較してみました。
導体径 | 0種 最小被膜厚 | 1種 最小被膜厚 | 2種 最小被膜厚 | 3種 最小被膜厚 |
Φ0.20mm | 0.019mm | 0.012mm | 0.008mm | 0.005mm |
最小被膜厚0.019mmとは、銅の表面を0.019mmの厚さのワニスが覆っているということであり、被膜を含む線の直径は Φ0.2+(2×0.019)となります。
被膜の厚さは、コイルのレアショートに効いてきます。レアショートの発生確率、危険性などとを考慮し、何種の線材を使うかを決めることになります。
私の今まで設計したコイルは、ほとんど1種線または2種線を使用したものです。
被膜の薄い3種線は、ちょっとした傷で銅が露出してしまい、レアショートを起こす危険が高くなります。極細の線で微電流を流す仕様で、できるだけ沢山巻きたい場合などに使用されます。
0種線については、高電圧を印加するコイルや、鉄などの固い金属に直接巻線を行った際に、使用した経験があります。
被膜の材質
絶縁被膜の材質は、耐熱温度の異なる数種類の中から選ぶことになります。
種類 | 記号 | 耐熱クラス | 耐熱温度 |
ポリウレタン | UEW | E種 | 120℃ |
ポリエステル | PEW | F種 | 155℃ |
ポリエステルイミド | EIW | H種 | 180℃ |
ポリアミドイミド | AIW | N種 | 200℃ |
線材の入手性が良いこともあり、通常はUEW、PEW、AIWの3種類の中から選ぶことが多いです。
使用する被膜を決めるにあたっては、以下の検討が必要になります。
① コイルに与える最大電流値から、コイル内部の温度上昇値を計算する。
② ①で算出された温度に、環境温度の最大値と設計マージンを加算する。
UEW線は、半田ごてを当てると被膜が溶けるため、被膜を剥かなくても半田付けが可能です。
それに対し PEW、EIW、AIWは、被膜を剥いでから半田付けを行う必要があります。
被膜を剥ぐ方法としては、
① 専用の被膜剥き機を使う。
② カッターの刃の様なもので被膜を削り落とす。
③ 薬品で溶かす。
などの方法が採られます。
融着線
融着線を使用する際は、コイル製造業者に在庫を確認し、在庫がある場合は、以下の内容を図面に記載すれば大丈夫です。
- 導体径
- 絶縁膜厚さ(0種、1種、2種、3種の何れか)
- 絶縁被膜の材質(UEW,PEW,EIW,AIWの何れか)
- 注記に「融着線を使用すること」と明記する。
コイル製造業者に融着線の在庫のない場合、コイルを固める他の方法を相談して決めてください。最悪の場合、在庫のある導体径に変更する必要があるかもしれません。
できるだけ詳細設計の前に、線材の在庫を確認することをおすすめします。
融着層の材質も、耐熱温度により種類が異なります。
耐熱温度180℃程度までは、熱可塑性物質である ポリアミドが、180℃を超えるとエポキシまたは熱硬化型の樹脂が使われます。高耐熱の融着線は、固める際に高温にする必要があるため、巻線後に冶具ごと温度層に入れて硬化させることになります。
エナメル銅線の種類についての説明は、ここまでになります。
次回は、コイルの巻数の計算方法について説明いたします。